【命懸け】珍プレーに隠された独裁者の脅迫、ルールを変えた談合…W杯の歴史に埋もれた「ヤバすぎる怪事件」第2弾

W杯豆知識

サッカーのピッチは、ときに戦術書の外側にある「別の何か」を生み出す。独裁者の脅迫に追い詰められてFKのボールを蹴り飛ばした選手、露骨な談合がルール改正を生んだ無気力試合、買収疑惑をバラエティで自虐ネタにした主審、殺伐とした乱闘戦の片隅でかつての戦友と肩を並べた退場者。笑えるものも、切ないものも、呆れるものも、全部ひっくるめてサッカー史の一ページだ。大好評シリーズ第2弾、今回も6つのエピソードをお届けする。あわせて読みたい:【1試合でイエロー16枚】W杯92年の歴史に刻まれた前代未聞の怪事件・第1弾はこちら

エピソード①:【1974年】命懸けのFK妨害——ザイール代表・イルンガの「走り出し」

長年、W杯ハイライト番組では「ルールを知らないアフリカ人選手による突拍子もない珍プレー」として面白おかしく紹介されてきた場面がある。1974年西ドイツ大会、ザイール(現コンゴ民主共和国)対ブラジル戦での「FK妨害」だ。しかしその裏には、独裁国家の凄惨な真実が隠されていた。

ザイールはアフリカ唯一の出場枠を勝ち取り、同年のアフリカネーションズカップも制した勢いのあるチームだった。その活躍に歓喜した独裁者モブツ・セセ・セコ大統領は、選手全員に家と緑のフォルクスワーゲンを買い与えるなど、王侯貴族のような厚遇でもてなした。

しかし大会は暗転する。第1戦のスコットランド戦は0-2で敗れたものの善戦した。だが第2戦のユーゴスラビア戦直前、選手への給与未払い問題が浮上し一部選手が出場拒否に。モチベーションが崩壊したザイールは0-9という歴史的大敗を喫した。激怒したモブツ大統領は現地に護衛官を派遣し、選手たちに命令を下した。「次のブラジル戦でさらに4点以上取られたら、帰国を許さない」——つまり命の保証はないという、極限の脅迫だった。

迎えたブラジル戦の終盤、すでに0-3でリードを許していたザイールはゴール前でFKを与えてしまう。名手リベリーノが助走に入ったその瞬間、壁に入っていたDFイルンガ・ムウェプが突如猛ダッシュで飛び出し、セットされたボールを大空へ向けて蹴り飛ばした。世界中の視聴者は爆笑したが、国際レベルの選手がルールを知らなかったはずがない。これは少しでもブラジルの攻撃時間を削るための、文字通り命がけの時間稼ぎだった——と、後にイルンガ本人が語っている。

試合は3-0で終了。4点目を奪われなかったことで選手たちは無事に帰国できた。しかし帰国後は国民からつまはじきにされ、モブツ大統領はサッカーへの予算を大幅に削減。多くの選手がその後の社会混乱のなかで貧困に苦しんだ。コンゴ民主共和国が再びW杯に出場したことは、2026年現在まで一度もない。

エピソード②:【1982年】「ヒホンの恥」——談合試合が現代ルールを生んだ

1982年スペイン大会グループリーグ最終節、西ドイツ対オーストリア。当時のグループリーグは現在と異なり、最終節が同時刻に設定されていなかった。アルジェリアはこの試合の前日にすでに全日程を終えており、西ドイツとオーストリアは「西ドイツが2点差以内で勝てば両チームともアルジェリアを得失点差で上回り突破できる」という条件を完全に把握した状態でピッチに立った。

開始10分で西ドイツが先制すると、そこから80分間は両チームともに攻撃を完全に放棄。ロングボールを蹴り合うだけの露骨な時間稼ぎが延々と続いた。スタンドのアルジェリアサポーターたちは紙幣を振りかざして「金で試合を買った」と抗議し、ドイツの地元メディアはこの試合を「サッカーの死」と断じた。実況アナウンサーが「この試合を解説する言葉がない」と沈黙を貫くという異例の事態にまで発展した。

この一件はFIFAに強い危機感を与えた。さらに遡ると1978年大会でもアルゼンチン対ペルー戦で同様の八百長疑惑が起きており、FIFAは「他会場の結果を事前に把握したうえで試合展開を操作できる構造」を根本から断ち切る必要に迫られた。

ルール改正:グループリーグ最終節の同時刻・別会場開催の義務化

「ヒホンの恥」と1978年の疑惑を受け、FIFAは1986年大会からグループリーグ最終節を同時刻・別会場で開催することを義務付けた。試合結果を事前に把握して展開を操作できないようにするこのルールは、今も世界中で当たり前のように運用されている。

エピソード③:【2003年】「世紀の誤審」モレノ主審、バラエティ番組で札束ドッキリ

2002年日韓W杯、韓国対イタリアの決勝T。エクアドル人主審バイロン・モレノは延長戦でトッティへの退場処分(当時は疑惑のダイブ判定)、終了直前のモリエンテスの正当なゴールを幻にするオフサイド誤審など、イタリア側に不利な判定を連発した。試合はPK戦で韓国が勝利し、モレノは「世紀の誤審」を生んだ主審としてサッカー史に刻まれた。

その翌年の2003年、今度はまったく別の舞台でモレノが話題をさらう。イタリアのバラエティ番組に出演した彼は、お札がはみ出したアタッシュケースを片手に登場。買収疑惑を自らネタにするという豪胆な姿を見せたが、最後は頭上から大量の水を浴びせられるドッキリに引っかかり、びしょ濡れのまま絶句した。

その後のモレノの人生はさらに波乱に富んでいる。2010年にヘロイン密輸の容疑で米国で逮捕・有罪判決を受け、2年以上を服役した。「世紀の誤審」から「バラエティの道化」を経て「受刑者」へ——これほど数奇な主審の人生もそうそうない。

エピソード④:【2006年】「ニュルンベルクの戦い」——階段で並ぶ二人の戦友

2006年ドイツ大会、ポルトガル対オランダ。イエロー16枚・レッド4枚というW杯史上最悪の乱闘戦については前回の記事で詳しく触れた。今回は、その修羅場が生んだ意外なエンディングに焦点を当てたい。

しかし、この荒れ狂う嵐の中で、奇跡のような人間ドラマが目撃された。後半、ともに2枚目の警告を受けて退場となったポルトガルのデコとオランダのジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト。ふたりは当時FCバルセロナでチームメイト同士だった。

ピッチを去った二人は、そのままサイドライン際の階段に肩を並べて腰を下ろした。自分たちが不在のピッチで続く「戦争」を、談笑しながら静かに見守るその光景は、極限の緊張状態にあったこの試合で唯一、奇妙に微笑ましい瞬間として歴史に刻まれた。殺気立ったピッチの外で、ユニフォームの色を超えてかつての戦友が肩を並べる——それがこの試合の「別の記憶」になった。

この「ニュルンベルクの戦い」はルール改正にも影響を与えた。選手がピッチのどこからでもスムーズに退場できるよう手順を整えるなど、試合遅延と感情の爆発を防ぐための見直しが、この試合を教訓として進められた。記録の多さだけでなく、その後のサッカーの在り方を変えた歴史的な一戦でもある。

エピソード⑤:【2022年】カタールW杯を彩った「アルバイトサポーター」疑惑

2022年11月、アル・バイト・スタジアムで行われたカタール対エクアドルの開幕戦。スタンドには揃いのシャツを着た地元の大応援団が陣取り、一糸乱れぬ声援で大会の幕開けを盛り上げていた。

しかし試合が始まるとカタールはエクアドルに圧倒され、前半だけで2失点。するとハーフタイム後、後半になっても観客の一部が席に戻らず、スタンドに空席が目立ち始めた。試合はそのまま0-2で終了し、カタールはW杯史上初の「開催国の開幕戦黒星」という不名誉な記録を刻んだ。

追い打ちをかけるように、試合後に衝撃の事実が発覚する。前半に熱狂的な声援を送っていたサポーターの一部が、お金で雇われたアルバイトだったというのだ。自国開催のW杯開幕戦という晴れ舞台で、試合内容での完敗・後半の空席・動員サポーターの発覚が三重に重なった。国威発揚の演出がこれほど裏目に出た例も、そうそうない。次の2026年大会はアメリカ・カナダ・メキシコの3か国共催。サポーター文化が根付いた土地での開催は、また違う熱狂を生むはずだ。全16会場・開催地まとめはこちら

エピソード⑥:【2022年】闘莉王、有言実行——冬のお台場をパンツ一丁で爆走

2022年カタールW杯開幕の約1ヶ月前、元日本代表DF田中マルクス闘莉王は動画の中でFW陣を「ヘボ、ヘボ、ヘボ」と一刀両断し、グループ突破の可能性について「カタールまで行けます。それだけです」と否定的な見方を示した。そして言い放った。「日本がこのグループを突破したら、俺、パンツ一丁で走り回りますよ」——誰もが冗談半分で聞き流したはずだった。

結果は周知の通り。日本はドイツとスペインという優勝候補2チームを撃破し、グループ首位で決勝トーナメントへ進出した。約束を守る男・闘莉王は逃げなかった。12月11日、お台場のフジテレビ本社ビル近くの砂浜でダウンジャケットを脱ぎ捨て、赤いパンツ一丁で波打ち際に立った。「ヤバい!しかも風が冷たい!」と苦悶の表情を浮かべながらも全力で駆け抜け、爆走後は缶ビールで祝杯をあげて「日本最高!」と叫んだ。

「やらなきゃダメっすよ、男は」——その一言に視聴者は「有言実行、素晴らしい」と沸いた。試合と同じくらい話題になったこの一件は、W杯が選手OBの人生まで巻き込む祭典であることをよく表している。

おわりに

笑えるものも、切ないものも、憤りを覚えるものも、全部ひっくるめて「W杯の歴史」だ。ヒホンの談合が同時キックオフ義務化を生み、ニュルンベルクの乱闘が主審の権限見直しを呼んだ。失敗や混乱が次のルールを作る——それがサッカーという競技の更新方法でもある。2026年大会が何を刻むかは、始まってみないとわからない。

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